日本にいる多くの人にとっておなじみの温泉マーク。
2016年7月に、国際規格のマークの導入を検討し始めていたものの、今後も現在使用している既存のマークを使用できることになりそうです。
温泉マークをめぐる現状。
12月6日の経済産業省の会議にて、現在の温泉マークも残して行くよう検討することになりました。
現在使用しているのはこのマーク。
これとまったく同じものではないですが、似たようなマークが日本各地の温泉などで広く使われています。
この温泉マークに、国際規格のものを導入しようとしたものでした。
外国人にはどう思われる? ~温泉マーク見直しの背景~
ことの発端は、7月に経済産業省が国際規格(ISO=国際標準化機構)のマークと違うので、温泉マークの見直しの動きを見せたこと。来たる2020年の東京オリンピック・パラリンピックを見据えてのものでした。
導入を検討していたのは、このマークです。
なぜこのマークを導入しようかといえば、外国人の方にとってわかりづらかったからです。
NHKの解説の記事では、外国人の方が温泉ではなく、熱いものや熱い料理を想像している様子が載っています。
カナダから来た男性「コーヒーか紅茶のお店?」
フィリピンから来た女性「焼き肉じゃない?」
(出典:NHK NEWS WEB『温泉マーク なぜ変える?』)
また、2015年3月の国土地理院の調査でも同様の回答があります。
- 暖かい飲み物と混同する:10名
- レストラン/コーヒーショップ/喫茶店みたい:8名
- 温泉記号の中に人が入っているべきだ:7名
- 日本文化の知識や初めて訪日する外国人にはわからない:5名
(出典:国土地理院『第4回 外国人にわかりやすい地図表現検討会 会議資料』(PDFファイル))
しかしながら、国土地理院の調査では、外国人全体ではわかりやすい:69%、わかりにくい:31%ですが、浅草寺周辺で聞いた一般の外国人(おそらく旅行者)では、わかりにくいの割合が71%に跳ね上がります。
- 全体
わかりやすい:69%、わかりにくい:31%- 一般
わかりやすい:29%、わかりにくい:71%
(出典:国土地理院『第4回 外国人にわかりやすい地図表現検討会 会議資料』)
(回答者:在東京大使館員52名、JICA研修生141名、留学生(筑波大、千葉大)172名、日本人学校生徒415名、浅草寺周辺の一般の方(街頭アンケート)51名)
日本のことをよく知っている外国人の方にはわかる一方、多くの旅行者にはマークの意味がわからないという結果が見えてきます。
では温泉地ではどうなのでしょうか?
日本でも有数の湯の街である、大分県別府市は、9月から10月にかけて、温泉のある全国の自治体110ヶ所にアンケートを実施し、回答のあった57ヶ所のうち36ヶ所が、現在の温泉マークの方がよいと答えたそうです。
また「温泉マーク発祥の地」と謳う、群馬県安中市の磯部温泉では、市と観光協会が温泉マークの存続要望書を提出しました。
地図記号としての温泉マークも多くの人になじみがありますし、静岡県熱海市の市章にも温泉マークが入っていたりと、温泉マークはすっかり日本の文化の一部になっているともいえます。
〈参考資料〉
- NHK NEWS WEB『”温泉マーク” 今のデザイン存続の方向で検討へ』(元記事の2016年12月7日時点でのアーカイブ)
- 産経ニュース『別府、由布院に湧きあがる反対 温泉マーク経産省案「混浴と誤解される」 大分』
経産省案への反発の背景。
ISOマークの導入に当たってのいちばんの問題は、やはり日本の温泉文化では、いまの温泉マークがしっかり根付いていることだと思います。
マークの変更にはただでさえ反発が起こりそうなところに、オリンピックだからといって替えようとしたことが強い反発となったのではないでしょうか。温泉地を置き去りにして経産省が先に検討したことも反発の一因かもしれません。これが温泉地の側から、例えばインバウンド観光客の拡大を目指してマークを変更しようとしたのならば、ここまで反発は起きなかったでしょう。
また、ISOマークそのものにも、日本人の入浴・温泉文化と相容れないものがあったのではないでしょうか。先の産経ニュースの記事では、「日本人に混浴と誤解されるのではないか」と危惧する声も紹介しています。外国での温泉の入浴は主に水着を着用しての混浴ですから、おそらく主にヨーロッパでの温泉文化をベースにできたであろうISOの温泉マークが、裸で入浴する日本の温泉文化になじまないのは必然だったのかもしれません。
今後、温泉マークを残していくには?
今までの温泉マークが引き続き使えるということで、マークの意味をわかる日本人や日本好きの外国人にとっては、温泉文化のひとつが失われずにすんだということでひと安心です。
しかしながら、まだ日本文化になじみがない外国人にとって、温泉マークの意味が伝わらないことは今と変わりません。
マークの意味を外国人にとってもわかるよう広めることが温泉マークの存続につながると思いますが、それは日本の温泉文化を外国人に広めることそのものではないでしょうか。日本に来る外国人観光客は増えつつあるので、同時に日本の温泉のよさがもっと多くの人伝わってほしいと思います。
同時に、規格面において、むしろ日本の温泉マークが国際規格で採用されるようになればいいなとも思います。日本人はこういった国際的に規格を形成していくのが苦手なようなので、がんばって欲しいところではありますが、ここでも外国人に日本の温泉マークが広まっていくことがカギになると思います。
外国、特にヨーロッパやアメリカでは、噴水やプールのマークで温泉を表しているようなので、日本の温泉マークが世界に広まっていければと思います。